君のことは一ミリたりとも【完】
「(不倫だって最初から分かっていたのだから、最後は割り切らなきゃ……)」
いつかこういう日が来てもおかしくないって、予想はしていたはずなのに。
「河田? 大丈夫か?」
「っ……」
社長室に戻ろうと私のデスクの近くを通った生瀬さんが俯いている私を気遣ってか声を掛けた。
「顔真っ青だぞ、気分が悪いのか」
「……あ、」
「……」
どうしてそんなことを聞いてくるんだろう、千里さんが原因だって分かっているはずなのに。
これ以上私に惨めな思いをさせないでほしい。
「何でも、ないです……」
「そうか、辛くなったら帰っても大丈夫だからな」
そう告げて社長室に向かう生瀬さん。彼は奥さんが私との関係を知っているって分かっているんだろうか。
でもどうしよう、バレているんだとしたら慰謝料とかを請求されるんだろうか。そうしたら嫌にでも親にも伝わる。
親にだけは、知られたくないな。
「(だけど、これは自分がしでかしてしまったことだから……)」
背負うものが多すぎて、今すぐこの場所から消えていなくなりたい。