君のことは一ミリたりとも【完】
定時を回る少し前、荷物を鞄を詰め始めた私に菅沼が「もう帰るのか?」と声を掛ける。
「ううん、今からこの間のイベントの主催者さんのところに行ってくる。謝ることもあるし」
「謝るって……」
「田島さん、イベントで商品の発注数間違えて迷惑を掛けたから、私が代わりに行ってくる」
そう彼に告げると視界の端にいた眼鏡を掛けた茶髪の女性がピクリと反応したのが見えた。
大学を舞台にした学生向けのゲームのイベントで、彼女は参加賞となっていたキーホルダーの発注を間違えて当日訪れた学生全員に渡すことが出来ないというミスを犯した。
主催者側は彼女が若いこともあり、「若い頃は沢山失敗をした方がいい」と事を小さく納めてくれだが、改めて謝罪をする時間を設けてくれた。
菅沼は「あー、あれな」と彼女に聞こえないような声で囁く。
「でも亜紀一人で行くの? 田島さんも連れてった方が」
「だけど彼女、まだ今日提出の資料が出来上がってないみたいだから」
「そ、そうか。つーか、お前大丈夫? さっきより顔色悪くなって来てるぞ」
彼に顔色のことを指摘されると自分がまだ生瀬さんのことでくよくよしていることを思い知らされているようで、菅沼の言葉を聞かなかったことにする。
「大丈夫、私そのまま今日は帰るから。じゃあお疲れ」
「お、おー、お疲れ」
確かに体は怠い、だけどこれは体調管理を出来ない私のせいだ。
全部私が悪い、田島さんのことだって後でちゃんと私が確認すれば良かったんだ。
全部、自分自身で償わなきゃ。