君のことは一ミリたりとも【完】
数時間後、思っていたよりも長引いた来訪に私は力尽きながらトボトボと駅へと向かって歩いていた。
今後はもうこんなミスはしないとのことで次のイベントの開催もうちでさせてもらえることになった。田島さんは無事に書類を完成し終わったのだろうか。
いいや、出来てなかったら明日私がやればいい。
その方が出来はいいだろう。
足取り重く駅へと向かっているとポツポツと空から降り始めた雨が肩を濡らす。
傘なんて持ってない!と慌てて走ったが降り始めた雨は徐々に激しさを増す。
途中の屋根のある軒下に辿り着きた時にはじゃじゃ降りの雨で全身が濡れてしまっていた。
傘もないし、多分もうすぐ止むだろうけれどここで雨宿りをした方が良いだろう。
「(今日、ついてないな……)」
突然千里さんは職場にやってくるし、後輩のミスで仕事が増えるし、体調悪いし、雨に降られるし。
なんか、こんなに自分が弱かったっけ?ってぐらいどうでもいいことが積み重なって潰れてしまいそうになる。
だけどそのことを相談できる人は誰もいない。
いなくなってしまった。
「生瀬さん……」
生瀬さんはもう私のことをなんとも思っていないんだろうか。ただの部下だと思ってる?
私と違って、肌を重ねた夜のことを一度たりとも思い出すことはない?
私ばかりが、別れた後でも想いが募る。
「(私、まだ生瀬さんが好きだ……)」
無理をしても忘れられないくらい、生瀬さんのことが好きだ。
自然と溢れ出した涙に立っているのも辛くなって崩れるようにしゃがみ込む。