君のことは一ミリたりとも【完】
ありがとうぐらい、言えばよかったかも。
「(いや、それよりも酷いことたくさん言われたし……)」
正解がない問題に頭を悩ませながらエレベーターに乗った。
部屋についてからもう一度眠れそうだ。
だけどその前に、
「……」
部屋について靴を脱ぎ、荷物を降ろすと私はしばらくの間スマホの画面と見つめ合う。
開いたトーク画面の彼のアイコンを眺めながら、意を決して文字を打ち込んだ。
【熱が出てしまったので本日はお休みさせてください】
これを見た生瀬さんはなんて思うだろう。ただの部下の風邪じゃ何も思わないか。
だけど何を思われても、今は何でかそこまで気にならない。
部屋に置かれてる彼からのプレゼントも、彼からの思い出も、
今ならどこかに捨てていけるかも。
「(彼を好きな気持ちだけ、私の中にあれば十分……)」
まだ彼が好きだとことがはっきり分かった。それをどうこうしようとは思わない。
大丈夫、今はただ生瀬さんへの気持ちが自然と消えるのを待とう。
いつかきっと、その時はやってくる。
その前に、
「お腹空いた……」
新しいことを始めよう。