君のことは一ミリたりとも【完】
「あ、イケメン社長だ!」
「他に言い方ないの?」
「ほら、アイドル並みの人気ですよ!」
「……」
この男が、河田さんをあそこまで追い詰めているんだよな。
その虫も殺さなぬような笑顔を振りまく画面越しの男に胸に陰りが生まれる。
昨日、ハッキリと河田さんはまだ生瀬のことが好きだと口にした。
そんな彼女に俺は想いを告げたのだが、全く想定もしていなかったのか真っ赤になった河田さんのことを思い出して笑ってしまう。
「(拗れてるなぁ、その分面白いんだけど)」
自分の恋愛をこんなにも他人事のように楽しめる日が来るとは思わなかった。
ニュースが終わると興味を失った加奈ちゃんは「お昼行ってきますー」と部屋を出て行き、それと反対に竹村が珈琲を片手に戻ってきた。
「この後の取材書類出来たのかよ」
「あー、うん。一応」
「ていうか昨日のアレ何だったんだ? 急にお前パソコン持って出ていくから吃驚したわ」
そういえば河田さんから電話が掛かってきた時はここにいたから残っていたメンバーには彼女からの電話に狼狽えている姿を見られてしまっているのだ。
相当あの時は焦っていたなという自覚があるため、「放っといてよ」と拗ねたような口調で話す。
「まぁ、色々あったんだよ。察しろよ」
「ふーん、けどあそこまで焦ってるお前珍しかったからな。いつも余裕綽々って顔して、腹立ってたからスッキリした」
「そんなこと思ってたの」