君のことは一ミリたりとも【完】
ちょっとショックなんですけど、と呟くと彼は後ろから俺の背中を押す。
「まぁ、またなんかあったら頼れよ。お前はウチに必要な男だからな」
竹村ってたまに恥ずかしいことを平気な顔で言うことあるよな。あれでいつも加奈ちゃんの仕事の相談とかにも乗っているのか。
確かにあんなに持ち上げられたら自信ついて、彼女があんなにも自信満々に俺にグイグイくるのも分かる。
午後、加奈ちゃんと二人で取材の終わりに会社へと戻っていると彼女からも昨日の夜の俺の慌てぶりの話になった。
そんなにも注目を集めるほどだったのか、と尋ねると「それはもう!」と勢いよく返事が掛かってくる。
「あんな先輩初めて見ました! 普段は飄々としててちょっと腹立つのに!」
「みんな俺に腹立ってたんだね」
「頼りになるんですけどね! ちょっと慌てた姿見たら先輩も人間だったんだなって」
「……」
サイボーグかと思われていたのか。
しかし加奈ちゃんはその後、少しだけ声のトーンを落とすと「あの」と、
「多分ですけど、あの電話の相手って女の子ですよね」
「……どうして?」
「女の勘です!」
「加奈ちゃんって女の勘好きだね」
そして毎回だけどその勘って結構鋭くて当たることが多いんだよね。だから女の子が言う「女の勘」って侮れないんだと思う。