君のことは一ミリたりとも【完】
そしてそれを自分から言うあたり、彼女は何かを覚悟しているんだろう。
そんな彼女に対してこれ以上変な気持ちを持たせるわけにはいかないという罪悪感が胸を苦しめる。
「……この間、同窓会で会った気になる人の話、少ししたっけ?」
「はい、昔は喧嘩ばかりしていたって」
「その子、女の子なんだけど。昨日の電話も彼女からだったんだ」
覚悟をしていた割に彼女は思っていたよりも傷付いた表情になった。
「どういうわけだか俺はその子のことが気になって仕方がなくて、昨日までずっとモヤモヤしていたんだけど、やっと気が付いたんだよね」
「……」
「俺はその子のことを本気で落としに行こうと思ってるし、今は俺のこと全然好きじゃないけど諦めようとかは思ってなくて」
どうにかこれ以上彼女が思いつめないような言葉を選んだつもりだったが、加奈ちゃんはクスクスと笑いを漏らしながらこちらを見つめた。
「先輩、女の子振るの下手ですね」
「振られたことしかないからね」
「その言い訳悲しくなりませんか」
「凄く」
ふふっと笑みを漏らした彼女は肩を落とすと、一瞬だけ落ちた頭を持ち上げた。
「ありがとうございます、スッキリしました」
「そう?」
「はい、スッキリついでに私先に会社戻ってますね」