君のことは一ミリたりとも【完】
真っ直ぐに風を切る彼女の姿は太陽の光に照らされて誰よりも目立っているように思えた。
曲がることのない一直線な彼女の走りは彼女自身を表しているようだった。
あの頃からきっと、俺は彼女の全てが気に入らなかった。
容姿にも才能にも恵まれているのに他人との干渉を避け、人に対して理解しようとも思わない。
周りの視線を伺ってヘラヘラしている自分とは正反対で、そんな自分を否定されているように思えたのだ。
だけど今こうして昔感じていたことを彼女の良さとして認められるのは、俺自身が大人になったってことなのかもしれない。
認めよう、俺は確かに彼女に再会するまでずっと思春期から抜け出せずにいた。
だけどこのままじゃ自分の一番大切なものを見逃しそうになったから、だから思春期のままじゃいられなくなった。
本当に彼女が欲しいのであれば、俺はそのために自分自身を抑えるべきだ。
「難しそうなのか?」
「難しいねぇ、だけどなんか楽しいんだよね」
「楽しい?」
「いい感じに拗れてる感じがさ。直ぐに手に入ったらつまらないでしょ」
「……」
竹村はそんな俺に「やっぱりお前は分からん」と首を横に振って自分のデスクへと戻っていった。
さて、ここで彼女からの連絡が途絶えたら何も起こらないまま終わってしまう。
河田さんがまだ俺に対して罪悪感を覚えているうちに次の行動に出た方がいいかもしれない。折角"偶然"にも手に入った連絡先が手元にあるんだから。
「(取り敢えず食事にでも誘うか……)」
分かりきった返事が返って来るのを想像して笑いながら、だけどそんなやりとりも今までじゃイラついて仕方がなかったのに楽しいと思えてしまう。
折角の恋愛だ、長期戦で行こう。