君のことは一ミリたりとも【完】
6 嫌われる青年
家にあった生瀬さんとの思い出のものを全部捨てた。
彼から記念日にもらったアクセサリーも、初めて見にいった映画のパンフレットも。
探せば溢れるほどに沢山あった。まるで付き合いたてのカップルみたいに。
二人ともいい年こいて何をやっていたんだか。
片付けたら、部屋が広くなったのと同時に気持ちが軽くなった。
一日体を休めると熱は思いの外早く引いて、次の日の朝には体を動かしたくて仕方がなくなった。
会社へ向かうと突然朝から菅沼が私に向かって頭を下げてくる。
「ごめん! お前しんどそーなの気付いてたのに止めてあげられなくて!」
「え?」
このとーり!と両手を合わせて私に頭を下げる菅沼に周りの視線が集まる。
慌てて彼の体を起こし「どういうこと?」と問い質す。
「お前、昨日熱出して会社休んだんだろ? 一昨日から様子がおかしいの分かってたんだよ。なのに営業先に行かせちゃったし」
「……」
そうか、菅沼は気付いていたのに私が熱を出して倒れてしまったことに責任を感じているんだ。
だけどきっとあの時の私は菅沼に止められれば止められるほど反対していただろう。
唐沢と話してから、視界が広くなって自分が冷静になれたことが分かる。
「ううん、気にしないで。菅沼が悪いわけじゃないから。昨日は疲れが溜まっちゃっただけだし、ちゃんと休めたからもう大丈夫」
「……だけどさ、亜紀。お前もっと周りのやつを頼れよ。今度から俺が止めるけど、俺がいなかったらどうすんの」