クールな社長の溺甘プロポーズ
「イルカショーまでもう少し時間があるな。どうする?席について待ちながら少し休憩するか?」
「そうね。歩きっぱなしだし、少し休みたいかも」
園内のほとんどを身終え、残すところはここの名物イルカショーを見るのみ。
私たちは飲み物を買い、ショーが行われる屋外スタジアムで端に座って開始時刻を待つことにした。
「ふう、水族館来たの久しぶりでついはしゃいじゃった」
「俺もだ。水族館なんて学生時代以来だな」
暖かな気温が動くうちに暑く感じるほどで、私は熱を冷ますように手で顔を扇ぐ。
そんな私を、大倉さんは細めた目で見つめた。
「けど、少しは元気が出たみたいで安心した」
……言われて、みれば。
大倉さんとはしゃぐうちに、心を落ち込ませていたものはどこかへ消えてしまっていた。
一緒に過ごす時間が、ただ楽しくて。
あっという間に心を照らしてしまう、陽だまりのような彼は、眩しくて直視できなくなる。
「……大倉さんは、やっぱり優しくて、どう向き合っていいかわからなくなる」
背けた視線を、ヒール低めの青いパンプスを履いた足もとに落とし、ぼそっとつぶやく。
あなたが、まっすぐ見つめるから。
優しくするから、甘やかすから。
いつも素直になれない私は、どんな顔をしていいかがわからないよ。
すると、彼は隣で小さく首を横に振る。
「別に優しくなんてない。俺はいつも、自分の望みに忠実なだけだ」
「望み?」
大倉さんが望むことなんて、なにも叶えていない気がするけど……。
顔を上げて彼を見ると、彼は微笑む。
「星乃に笑っていてほしい。それだけだよ」
私に、笑っていてほしい。
それが、大倉さんの望み?
どうしてそんなことを、と驚く私に、彼はそっと手を伸ばし私の左手を握った。