クールな社長の溺甘プロポーズ
「今までもいつもそう。私は、仕事ばっかり優先しちゃって、相手の気持ちも考えられない女だから……だから、いつも相手の心が離れていく」
何度繰り返しても、同じ。
いつも私は、『仕事が』、『仕事で』、そればかりで、相手の気持ちを考えてあげられない。
徐々に相手の気持ちが離れていると感じている時ですら、不安を仕事で誤魔化そうとして、余計悪循環に陥る。
なのに、それなのに。
「それなのに、それでも、どちらかを選ぶなんて出来ない」
仕事より相手を優先することが、できない。
自分でも、どうしてもっと上手くできないんだろうって悔やむほど、不器用でしかない。
大倉さんの前で初めてこぼした本音に、彼は握る手にいっそう力を込めた。
「俺は、そこまでプライドを持って仕事をする星乃のことをすごいと思う」
「……すごくなんて、ない」
「すごいよ。だから、そんな自分をもっと誇っていい」
お世辞にも嘘にも聞こえない言葉を口にする彼は、まっすぐな眼差しで私を見つめた。
これまでで一番近い距離でこの目を覗き込むその黒い瞳に、吸い込まれそうだ。
「いつもそうやって強くいる星乃だから、たまにはひとりで抱え込まずに弱音を吐いたって、愚痴を言ったっていい」
「そんなこと言って……甘やかさないでよ」
「大切な人を甘やかしたっていいだろ」
大倉さんはそういうと顔を近付けて、そっと私の額と自分の額を合わせた。
「どんな星乃にも、呆れたりしない。失望しない。俺に、受け止めさせてほしい」
どんな、私にも。
その優しい声に、込み上げるものは抑えきれず、次の瞬間にはポロポロと涙がこぼれた。
そんなふうに甘い言葉ばかり言うから、気持ちが緩む。
大人になってから、人前で泣くなんてしたことなかったのに。
恥ずかしい、情けない、かっこ悪い。
だけど、涙が一粒こぼれるたびに心が軽くなっていく。
不安が、少しずつ消えていく。
今だけの綺麗事なのかもしれない。
だけど、それでも信じたい。
強く握るこの手と、あたたかな言葉を、信じたい。