クールな社長の溺甘プロポーズ
◇7.信じてほしい
優しい人
真っ直ぐな人
そんな彼のひとつひとつを知るたび、だんだんと惹かれている自分がいる。
彼は親が勝手に決めた相手。
彼自身も、使命感でプロポーズをしているだけ。
そんな状況を、忘れてしまいそうになるほど。
桜もあっという間に散り、景色は葉桜の緑色に変わりゆく。
そんな4月下旬の、火曜日の午後。
長時間に及んだミーティングを終え、自分のデスクに戻り書類をまとめていると、米田さんがドアから顔をのぞかせた。
「澤口、お疲れ。今回もミーティング長かったな」
「そうなんですよ……来期の販促物に関しての改善点で店舗運営部と企画部が大揉めで」
同じブランド内でも、現場と企画では考えが異なることもある。それを言い合い喧嘩手前となった会議室で、私は必死に両者を宥めていた。
そんな私の姿が想像ついたのだろう。米田さんは苦笑いを見せた。
「そんなお疲れのところ悪いけど、明後日からの出張の宿泊先と新幹線の予約は大丈夫か?」
「あ、はい。もちろん。今回は私と米田さんふたり分で大丈夫でしたよね」
それは、明後日からの出張の確認。
柳原チーフや米田さんなど各ブランドのチーフは、半年に一度くらいを目安に全国各地にある店舗に巡回へ向かう。
普段は担当者に任せているけれど、定期的に自分たちの目で確認しスタッフと話をするためだ。
けれど、まだ幼いお子さんを持つ柳原チーフは長期間の出張が難しいということで、私が代わりに行っているのだ。
今回は一週間をかけて十数店はある東北エリアの店舗をまわる。
時間もないなか、バタバタのスケジュールだ。
ちなみに、米田さんのブランドとうちのブランドはお互い同じ商業施設に入っていることが多い。そのため今回も一週間一緒に巡回へまわるのだ。