クールな社長の溺甘プロポーズ
「これから飲みに行きませんか?近くにいいお店見つけたんです」
「悪いが先約がある」
「えー。大倉社長ってばいつもすぐ帰っちゃうじゃないですか、たまには社員と親交を深めましょうよ!」
きっと彼女たちは大倉さんに好意を寄せているのだろう。けれど大倉さんは相変わらずのドライっぷりであしらう。
それに負けじと、半ば強引に彼の袖を掴む彼女たち。その近い距離に胸がチクリと痛んだ。
するとその時、なにげなくこちらを見た大倉さんと目が合う。
「星乃。来てたか」
彼は私を見つけてすぐさま近づいた。
「……お疲れ様」
「お疲れ。わざわざ来てもらって悪かったな」
私の頭をぽん、と撫でる大倉さんの仕草に少しきゅんとしてしまう。
ところが、一方ではそれまで笑顔だった彼女たちの顔が驚き歪むのが見えて、ギョッとしてしまう。
「あれ、大倉社長そんなところでどうされたんですか?見慣れない女性も連れて……あっ、もしかしてそちらが例の彼女さんですか?」
そこに後からやって来て、割って入るのはつり目に茶髪の細身の男性。
その声から、昼間大倉さんの電話に割り込んだ人なのだろうと察する。
まだ若そうだけれど質のいいスーツを着ている、その見た目から察するに、大倉さんの秘書といったところだろうか。
そんな彼に、私は首を横に振り否定しようとする。
「いえ、彼女っていうか……」
「婚約者だ。いずれ結婚する」
「は!?」
ところが、私の言葉を遮るように大倉さんが言ったのは『婚約者』のひと言。
その発言に、私以上にその場にいる人々、さらには話が聞こえたらしい通りがかった人、全員が驚き大倉さんを見た。