クールな社長の溺甘プロポーズ
……自分の会社の人にはなにも話していなかったんだな。
驚きや疑いの声でざわめき出すエントランスに居心地の悪さを感じていると、秘書の彼だけは喜ばしそうに表情を明るくした。
「そうなんですか!?じゃあ早急に社内でもお祝いを……あっ、挙式はいつですか!?どちらの会社を招待しましょうか!?はっ、ご挨拶が遅れてすみません!僕は大倉社長の秘書を務めさせていただいております、村上で……」
そう挨拶をしながら握手を求めようとする彼に、大倉さんはすかさずその手を払いのける。
「人の女に触るな」
「あっ、すみません!さすがの大倉社長もヤキモチ妬いちゃいますよね!」
口を尖らせ言う彼に大倉さんはじろりと睨む。
村上さんは悪気や嫌味など一切なく言ったのだろう。なぜ睨まれたのかもわからなそうに首をかしげた。
ヤキモチ……。
大倉さんって、妬いたりとかするタイプなのかな。表情に出ないからわからないけど、もしそうだったら嬉しい……って、なんで!
はっとして見れば、その場にいる女性たちは先ほど以上に顔を歪め、睨むような目つきをこちらへ向けている。
こ、怖い……!
うちの会社も女性が多くていろいろ確執はあるけれど、ここまで露骨に態度に出されると驚いてしまう。
「えー?結婚って本気で言ってます?大倉社長ならもっといい人見つかるんじゃないですかぁ?」
「そうですよ。焦って妥協とかしちゃダメですよ〜」
彼女たちは、目が笑っていない笑顔で言う。
本人を目の前にして堂々と言うなんて……すごい神経だ。チクチクと刺すような言葉に耳がいたい。
けれどそう言いたくなるくらい、大倉さんはやはりモテるのだろう。
「ま、まぁまぁ!あっ、皆さんもしよければ今日秘書課のメンバーと一緒にご飯行きません?イケメンも連れて行くんで!」
「えっ、いいんですか?さすが村上さーん」
そのギスギスとした空気にさすがの村上さんもまずいと察したらしい。そう上手く言って女性たちを連れてその場を歩き出す。
一瞬ちらりとこちらを見ると『あとは任せてください』と言うかのように頷いて見せた。