クールな社長の溺甘プロポーズ
あなたは、すごい人。
だから、会社のためなんかに私を選んでいいのか、率直に問いたい。
「すごいのは、俺じゃない。周囲だ」
「え?」
周囲……?
その言葉の真意がわからず、今度は私が不思議そうな顔になってしまう。
すると大倉さんは私の隣に立ち、同じように窓の外を見つめた。
瞬きの少ないその瞳は、感情が読めない。
「社長という立場にいた父親、俺を今社長として認めてくれた会社、支えてくれる社員……俺は、いつでも恵まれてるだけだよ」
そう言って、「それに」と言葉が続けられる。
「今俺がそんな環境にいられるのも、澤口さんがいたからだ」
お父さんが……?
話の続きを待つように大倉さんを見ると、薄いその唇は一瞬ためらい、意を決したように開かれた。
「うちは元々父子家庭だったんだが、親父は俺が子供の頃から仕事ばかりでな。たまに夕飯をともにするくらいで、滅多に一緒には過ごせなかった」
「えっ、じゃあいつも家にひとりで?」
「家にはハウスキーパーもいた。けど、友達から親と出かけたとか聞くたび羨ましかったな。親には言えなかったが、寂しかった」
親に見てもらえない寂しさ。
それは幼い頃の自分の気持ちに重なる。
「けど、そんな中出会ったのが父の友人であり取引先の社長の澤口さんだった」
「お父さんが、大倉さんのお父さんの友達?」
私自身はなにも聞いていなかっただけに、ここで父の名前が出てきたことに驚いた。