クールな社長の溺甘プロポーズ
「澤口製作所の工場は実は当時俺が住んでいた家の近くでな。たまたま学校帰りに顔を合わせるうちに仲良くなって、それが父親の友人だと知ったときには驚いた」
「へぇ、すごい偶然」
「澤口さんはいつも俺に気さくに話しかけてくれて、いつしか俺も学校帰りに工場に寄ってその日のことを話すのが日課になっていた。
時に笑ってくれて、叱ってくれる。そんな澤口さんをまるで本当の父親みたいに感じてたし、その気持ちは今も変わらない」
それは、大倉さんの胸のうちの寂しさを感じていたからなのかもしれない。
それにうちには女子しかいなかったから、お父さんも息子ができたようで嬉しかったのだろうとも思う。
そんな昔のことを思い出しているのだろう、大倉さんは小さく笑う。
「向き合ってくれた澤口さんがいたから、変にひねくれたりせず今の俺がある。感謝しても、しきれないんだ」
遠くを見つめるように細められた目。
誠実な横顔から、その言葉は真剣な気持ちから発せられたものなのだろうと察することができた。
ふたりの間に、そんなことがあったんだ。
大倉さんが私との結婚を提案したのは会社だけが理由ではなく、その恩義のようなものがあるのだろう。
そこまで支えてくれた人の頼みだ、結婚話のひとつで返せるならということなのだろうか。
そして、それと同時に以前彼が話してくれた夢の理由も。
あの頃自分を支えてくれた私のお父さんを、今度は自分が支えたいという願いからだったんだ。
……けど。
私は両手を伸ばし、少し高い位置にその顔をガシッと掴むとやや強引にこちらを向かせる。