クールな社長の溺甘プロポーズ
◇9.理性を脱がせて
大倉さんの家に行った日、私は彼の手料理を食べて、ふたりでDVDを観ながら少しゆっくりして……日付が変わる前には帰宅をした。
なんとも健全な家デート。
だけど、初めて聞いた話に、彼の心の中まで知ることができたようで嬉しかった。
ひとつひとつ、もっと知っていきたい。
もっと近くにいたい。
その胸の中の嬉しさも切なさも、触れたい。
どんどんと、欲が増えていく。
よく晴れた水曜日の朝。今日もまた、会社前の道路で車が停められる。
大倉さんが家に迎えに来ることにも、こうして送ってくれることにももうすっかり慣れ、私は普通の顔でシートベルトを外した。
それを合図に大倉さんは車を降りると、こちらへ回り助手席のドアを開けた。
「ねぇ、いい加減にそれやめてよ。恥ずかしい」
不満を漏らしながら降りる私に、彼は平然とした顔でドアを閉じる。
「じゃあ、また夜迎えに来る」
「はいはい。今夜もいいお店探しておいてよね」
「あぁ。楽しみにしておけ」
そう言って、近づく顔。
その距離から、彼が頬にキスをしようとしていることを察し、私はバッグでその顔を押しのけ防いだ。
「……学んだな」
「そりゃあ、いい加減にね」
ふふんと鼻で笑って「じゃあね」とその場を歩き出す。
今日は私の方が一枚上手だった。
誇らしげにちら、と振り向くと、こちらを見つめる彼はなぜか心なしか嬉しそうだ。
……なんで、だろ。いつでも私の方が、転がされている気分だ。
悔しいような、そんな表情が嫌いじゃないような。複雑な気分だ。
そんなことを考えながらビルに入りエレベーター待ちの人々の列に並ぶと、そこに立っていた米田さんは胸焼けのような苦い顔をしている。