クールな社長の溺甘プロポーズ
「おはようございます。どうかしました?」
「いや……出社早々に朝からイチャついてるカップル見かけて胸焼けが」
お前らのことだよ、とでも言いたげにじろりもこちらを見るその目に、恥ずかしさから頬が熱くなる。
「べ、別にイチャついてなんてないです」
「へぇ。あれがイチャついてない、ねぇ」
その言葉に『そうは見えないけど』と付け足したいのだろうニュアンスが感じ取れた。
「けど、前に見た時より仲良くなってるよなぁ」
「仲良く、ですか?」
「あぁ。澤口の表情が違う」
私の、表情が……。
確かに、以前ほど彼を拒む気持ちはない。
寧ろ、どんなときも受け入れてくれる彼に安心感を感じている。
過去のことを話してくれたことも、嬉しかった。
なんて、そう思うのはどうしてだろう。
彼の部屋で見た笑顔を思い出して、それ以上の否定を出来ずにいる私に、米田さんはなにかを察したように言う。
「なんだかんだ言って、この分だと結婚も遠くないなー」
『結婚』。
私と、大倉さんが……。
自分のなかで拒む理由がないのなら、受け入れてしまってもいいのかもとも思う。……だけど。
「……迷って、るんです」
結婚は、大倉さんが望んでいることではない。
正しくは、大倉さんが恩を感じている私のお父さんが望んでいること。
そう思うと素直に頷くことはできない。
だけど、断ることも今更できない。
「あの、米田さん。始業前にちょっとコーヒー飲んで行きません?話したいことがあって」
「へ?いいけど」
迷う気持ちから、誰かの冷静な意見が聞きたくて私は自分と大倉さんのこれまでの経緯を米田さんに話すことにした。
さすがにここでは人の耳にも入ってしまうし、話しづらいことから、私はエントランスにあるカフェを指差し米田さんを誘う。
不思議そうにしながらも付き合ってくれる彼に、ふたりエレベーター前を離れてカフェへと入って行った。