クールな社長の溺甘プロポーズ
「澤口と相手をつないでるのは父親の存在だ。ということは、もし今後なにかがあって父親が『別れろ』って言い出したら、相手はすぐ離れていくってことだ」
……そっか。そうだよね。
彼が私といるのは、自らの意思じゃない。
わかっていたつもりだけど、米田さんの言葉に改めて思い知る。
客観的に見た人からの言葉だからこそ、冷静だ。
お父さんが困っていたから、彼は私にプロポーズをした。
会社のためにもなるし、恩人への恩も返せるから。だからワガママも聞くし、どんな態度にも甘い言葉を返す。
抱きしめた腕だって、そのための作戦かもしれない。
全ては、会社と恩人であるお父さんのため。
……私のためじゃ、ない。
「……そう、ですよね」
ぼそ、とつぶやく自分の声が明らかに落胆しているのが自分でもわかった。
「別世界の男に熱心に言い寄られて心が揺れるのもわかるけどさ、少し冷静になれよ」
そう言って、米田さんはコーヒーを飲み終える。すると丁度そこに通りがかった上司に呼ばれ、その場をあとにした。
ひとり残された席で、コーヒーのカップを見つめながら米田さんの言葉を頭に巡らせた。
大倉さんは、私のことを好きなわけじゃない。
わかってるよ。その胸にある気持ちは私に向けられたものじゃないくらい。
抱きしめる腕も、優しい言葉も、根底にあるのは私への愛じゃない。
なのに、何度だって勘違いしてしまう。
それどころか、日を増すごとに都合のいい考えが頭に浮かぶ。
本当は、もしかしたら。
私を思ってくれているんじゃないか。
私を見てくれているんじゃないか。
そんなことを考えてしまう。
望んで、しまうんだ。