クールな社長の溺甘プロポーズ
「どうして別れたのか、聞いてもいい?」
その質問に、大倉さんは『人の恋愛話になるとグイグイくるな』、と言いたげに呆れたように笑う。
けれど、私が引き下がらないと感じたのだろう。諦めたように話した。
「いつも『気持ちがわからない』と言われて終わる。『嫌われてはないだろうけど、自分を好きで付き合ってくれてるとは思えない』、と言われたこともあるな」
気持ちが、わからない。
それは彼が無愛想で感情がわかりづらいからだろうか。
それとも、他にもなにか理由がある?
「大倉さんは、その人のこと好きだった?」
ぼそ、とたずねると、大倉さんはそんなことを聞かれるとは思わなかったように少し驚く。
そしてなにかを考えてから、首を横に振った。
「……好き、ではなかったのかもな。思えば、本当に心から愛しいと感じられた相手は、過去にひとりしかいない」
過去に、ひとり。
その言葉に胸の奥をぎゅっと締め付けられる苦しさを感じた。
心から愛しさを感じるような、そういう人が彼にもいたんだ。
過去にひとりということは、私に対しての気持ちも違う?
そう思うと苦しくて、出そうになった言葉を飲み込むように勢いよくグラスの中身を飲み干した。
「ワイン、おかわり」
「そんなに勢いよく飲んで大丈夫か?」
「大丈夫。いちいち口出さないで」
モヤモヤと、チクチクとしたこの気持ちを、お酒で流してしまいたい。
過去に愛しさを感じた人って、どんな人?
じゃあ、私にはどんな気持ちを抱いているの?
そう聞きたくて、聞けなくて、言葉を飲み込んだ。
こんなに苦しいのは、切ないのはどうしてだろう。
なんでこんなに、その言葉を嫌だと感じるの。