クールな社長の溺甘プロポーズ



その夜、エントランスには今日も大倉さんの姿があった。

最早慣れた光景に、以前のように『迎えに来るのやめてよ』と言うことはなく、私はいたって自然に大倉さんに声をかけた。



「お待たせ。悪いわね、今日。父がいきなり食事に誘ったりして」

「いや、いきなりかつ強引なところが澤口さんらしい」



きっと大倉さんのもとにも『じゃ!そういうことだから!』と父の勢いのいい電話がいったのだろう。

大倉さんはそれを思い出すかのように小さく笑って、呆れ顔の私をなだめるように頭をよしよしと撫でた。



まるで子供扱い。だけど、その優しい手がやっぱり嬉しい。

心を穏やかにしてくれる彼。

だからこそ、一緒にいたい。

試しで、なんて形じゃなく、本当の恋人として。その心に寄り添いたい。



そう、いっそう強く思った。





それから大倉さんとともに車で向かったのは、父から指定された銀座にあるしゃぶしゃぶが有名の店。

近くのパーキングに車を預け、大通りから一本入ったところにひっそりとあるお店へと入ると、小さな店内で着物姿の女将さんが出迎えてくれた。



「澤口さまですね、奥のお部屋でお待ちです」



そうお店の奥に案内され、襖を開けると、畳が敷かれた個室の中にお父さんの姿があった。



「おお、星乃!佑も、待ってたぞ」



白髪混じりの髪をオールバックにし、茶色いスーツに身を包んだお父さんの目の前には、既にいくつかのおつまみと日本酒の入ったグラスか置かれている。

その光景に呆れた顔になる私の隣では、大倉さんが「こんばんは」と小さく会釈をした。


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