クールな社長の溺甘プロポーズ
少し時間をかけて息を深く吸い込んで、ようやく冷静さを取り戻した。
自分の立場を思い知るような、そんな言葉聞きたくなかった。
だけど、聞けてよかったとも思う。
浮かれた気持ちのまま、冷静さを欠いた判断をしなくて済んだ。
そう。私が選ぶべきものは、違う。
……戻、らなくちゃ。
普通の顔で、なにもないかのように。席に戻って、言うんだ。
言い聞かせるように胸の中で呟くと、私は呼吸を整えて戸をそっと開け、何事もなかったかのように席に着く。
「お、星乃戻ったか。今ちょうど佑とお前の話をしていたところでな」
「へぇ、どんな話?」
聞いていたけれど、知らないふりで笑って誤魔化す。そんな嘘に気づくことなく、お父さんは上機嫌に話を切り出した。
「お前たちの仲もそろそろ深まっただろうし、いよいよ本格的に結婚や挙式の話を進めたほうがいいんじゃないかと思ってな」
私が冷静さを取り戻すまでの間にそんな話をしていたのか、それとも先ほどの話題を誤魔化すための嘘なのか。
どちらでもいい。
私のするべき返事は、ひとつ。
「……やだなぁ、お父さんってば。私は大倉さんと結婚するつもりなんてないって、何度も言ってるじゃない」
それは、はっきりとした否定の言葉。