クールな社長の溺甘プロポーズ
それからお父さんは少し落胆したものの、『星乃がそこまで言うのなら』と納得した様子も見せてくれた。
だけど終始、私は大倉さんの顔を見ることが出来なくて、どこかぎこちなさを残したまま、店先でお父さんとは別れた。
「お父さんも行ったし、私たちも帰りましょ」
お店を出て、車を置いたパーキングまでの道のりを私と大倉さんはふたりで歩く。
いつもと違う重い空気の中、私のパンプスのコツコツという音だけが静かな細道に響いた。
「少しは、前向きに考えてくれているのかと思っていたんだが」
ぼそ、と呟いた低い声に、私は隣を見ることなく答える。
「なんの話?そんなこと、言った覚えないけど」
そして大倉さんと向き合うように足を止めると、彼も足を止め私を見た。
「ちょうどいい機会だからはっきり言うわ。もうやめましょ、こういうの」
感情的になることなく、冷静に。自分の覚悟をはっきりと告げる。
「お父さんがこんな条件を呑んだことは私にも責任があるって思ってる。だから、これからは澤口製作所を継いでくれるような結婚相手を自分で探すし、相手と歩み寄る努力もする。
だから大丈夫、あなたはもう自由よ」
そう、大倉さんはもう自由。
自分の意思で、相手を選べる。誰かのために結婚だなんてしなくていい。
好きでもない相手のワガママをきく必要も、気を引くような甘い言葉を囁く必要もない。
その言葉に、大倉さんは無言のままだ。