クールな社長の溺甘プロポーズ
◇11.目を見て、言って
最後に見た彼は、悲しげな目をしていた。
その目が今でも瞼の裏から消えなくて、体を突き放したこの指先は、じんじんと痺れを感じ続けている。
最低、最悪な終わり方。
だけど、これでもう完全にさよならだから。
この心から、その心から、過ごした日々を消し去って。
「澤口、澤口ってば!」
「へ?」
柳原チーフの声にふと我にかえれば、私の目の前のコピー機からはガーッと音を立てひたすら用紙が排出されている。
「さっきからずっと印刷続けてるけど、何枚コピーするつもり?」
「え?何枚って10部ですけど……って、あぁ!100部で設定されてる!!」
そりゃあ印刷が止まらないわけだ!
慌てて停止ボタンを押すけれど、すでに遅く、大量の用紙が出来上がってしまっていた。
ボーッとしていて気づかなかった……。
やっちゃった、と肩を落とす私に、柳原チーフは呆れたような顔をした。
「大丈夫?最近澤口なんかおかしいけど」
「そうですか?」
「そうだよ。昨日は完成したデータうっかり削除しちゃうし、メールも全く違う人に送ってるし、おまけにスマホと間違えてエアコンのリモコン持ってきてたし……」
うう、そう言われると確かに……。
心配されて当たり前といっていいくらい抜けているかもしれない。
「ちょっと働きすぎなんじゃない?最近彼氏とデートもせずに残業ばっかりしてるみたいだし」
『彼氏』、その言葉に苦しさを感じながら、それを見せないように笑う。