クールな社長の溺甘プロポーズ
「あ、あはは。最近彼も忙しくて。私も仕事頑張らなきゃって」
「へぇ。でも無理しちゃダメだからね!澤口がいなきゃ私も部署も困るんだから」
柳原チーフはそう言って、自分のデスクへ戻っていく。
気にかけてもらえるのも、必要としてもらえるのも嬉しい。
……けど、嘘ついちゃった。
大倉さんと会えていないのは、そんなことが理由ではない。
帰り道にはっきりと彼に終わりを告げたあの日から一週間。
あれ以来大倉さんは会社にも自宅にも現れることはなくなった。
当然かもしれない。あれだけはっきり拒んで、頬まで叩いた。そんな女にいつまでも構う必要はない。
連絡も取れないように、着信もメッセージも拒否に設定した。
彼はもう、自由だから。結婚相手だって、自分で選べる。
自分の好きな人と、一緒にいられる。
お互い、これでよかったんだと思う。
そう、これが一番いい形の終わり方。
そう何度も自分自身に言い聞かせるのは、きっと、自分が一番納得できていないから。
「……はぁ」
コピー機から取り出した用紙を抱えて、深いため息とともに俯く。
「こら、澤口」
すると、突然名前を呼ばれるとともに頭をぽかっと叩かれた。
顔を上げると、そこには筒状に丸めた書類を手にした米田さんがいる。
「ため息つくな。オフィスが辛気臭くなるだろ」
「……すみません」
確かに。私情で仕事中に溜息なんて、場の空気を悪くするだけだ。
そんなことにも気づけない自分が少し情けなくて、米田さんに素直に謝る。
ところが、そんな私の反応が意外だったのだろう。彼は少し驚いた顔を見せた。