クールな社長の溺甘プロポーズ
それから私たちは仕事の話なども交えながら、数時間の食事を終えた。
ごはんは美味しかったしお腹はいっぱいだし、ほどよくアルコールも入っていつもならふわふわとした気持ちになってしまうだろう。
けれど、ふたりの間にはどこか緊張感が拭えないまま。駅までの大きな通りを歩いて行く。
「米田さん、ごちそうさまでした。すっごく美味しかったです」
「どういたしまして」
いつも通り、このまま『じゃあまた明日』と去ってしまいたい。
けれど、それをさせないかのように米田さんは私の右手を掴むと足を止めた。
「米田、さん?」
「それで、答えは出たか?」
行き交う人の中、同じく足を止めるとたずねられたことに、心臓はきゅっと締め付けられる。
彼の気持ちに対しての、答え。
私は、これまで米田さんのことは先輩としてしか見たことがない。
だけど、米田さんはいい人だし、お互い恋人もいないのだから阻むものはなにもない。
大倉さんと同じように、まずは恋人から、お試し感覚で始めてみてもいいのかもしれない。
……だけ、ど。
「難しく考えなくていい。今澤口が思ってることを教えてほしい」
「え……?」
そんな私の、グラグラとする心を見透かすかのように米田さんは問いかけた。
「俺が澤口を好きだから、とかそういうの抜きにして。澤口自身は、俺に対してどう思う?」
米田さんに対して、私自身が思う気持ち。
「米田さんは、かっこよくて、仕事もできて、いい先輩で……人として、好きです」
仕事でも頼れる、優しい人。
だけど、この胸にあるのは恋愛感情ではない。
「じゃあ、あいつに対しては?」
『あいつ』と米田さんが指すのは、大倉さんのことだろう。
大倉さんの気持ちとか、言葉とか、そういうものを取っ払って、私自身が大倉さんに対して抱く気持ち。