クールな社長の溺甘プロポーズ
大倉さんが私を見ていなくても、私自身に興味がなくても。
私は、彼の優しさに救われた。
彼のあたたかさが愛しくて、一緒にいたいと思った。
私自身が、大倉さんを好きなんだ。
そう実感した、その時だった。
どこか離れたところから、誰かを呼ぶ声が聞こえた。
「ん?なんだ……?」
同じくその声に気付いた様子の米田さんとともに後ろを振り向くと、人波の中を駆けてくる姿が遠くに見えた。
「……乃!星乃っ……星乃!!」
『星乃』、そう確かに私の名前を呼びながら駆けてくるのは、スーツ姿の大倉さんだった。
大倉さん……?
どうして、ここに。どうして、私の名前を呼んで?
駆けてくる相手が大倉さんだと察したのだろう。米田さんは私の背中を軽く押す。
「ちゃんと伝えろよ。フラれたら慰めてやるから」
そして、そう言うと「じゃあな」とその場を後にした。そんな米田さんと入れ替わるように、大倉さんが私の元へ足を止めた。
よほど急いできたのだろう。彼は息を切らせながら、窮屈そうに首元のネクタイを緩めた。
「大倉さん……なんで」
「車で通りがかったら、姿を見つけたから……停めさせて急いでここまで来た」
こんなに沢山の人の中で私を見つけてくれた。そして、駆けつけてくれた。
そのことが嬉しくて、やっぱり彼のこういうところが好きだと思い知らされた。
ところが次の瞬間、大倉さんは私の顔を両手でガシッと掴んだ。
その顔は、想像していた優しいものとは違う。
冷たい目が寧ろどちらかといえば怒っているのだろうことを教えた。
「お、大倉さん……怒ってる?」
「当然だ。いきなり別れを告げたかと思えば連絡も拒否するとはどういうことだ?会いに行こうにもこの一週間海外出張で行けなかったし……」
「へ?海外?」
じゃあ、あの日以来会社にも家にも来なかったのは、もう終わったからじゃなかった?
きょとんとする私に、大倉さんは言いたいことや思うところがいくつもあるのだろう。考え、言おうとして飲み込んで、困った顔で髪をかく。