クールな社長の溺甘プロポーズ
「とりあえず、話をしよう。伝えたいことが、沢山ある」
彼の、伝えたいこと。
それはどんなことかはわからないけれど、勇気を出して耳を傾けよう。
そして伝えるんだ。私の、気持ちも。
「……うん」
小さく頷いた私に大倉さんはそっと手を引き歩き出す。
少し歩き、ビルとビルの間に見つけた小さなベンチに、私たちは腰をおろした。
ふたりそろってベンチに座る。けれど膝が触れないよう、数センチ距離を開けて座った。
「この前の話の続きだけど。……あれは、本心か?」
問いかけるその低い声に、素直に答えられず膝の上で拳を握る。そんな私の反応を横目で見る、彼の視線を感じた。
「……俺は、もう自由だと」
どこか切ない声色で、ぼそ、と彼が呟いた言葉。
それに対して私は、胸の痛みをこらえながら深く息を吸い込んで頷いた。
「そうよ。だから、大倉さんは誰と付き合おうが結婚しようが自由」
静かな夜の街に響いた声に、大倉さんは「そうか」と小さく呟いた。
違うの、こんなことを言いたいわけじゃない。
だけどなんて言おう、なんて伝えよう。
そう心の中で迷った、その時。大倉さんは突然距離を縮め、私の唇を塞ぐようにキスをした。
あまりに突然の行為に、その唇の感触を実感したのは唇が離れてからだった。
「大倉、さん?なんで……」
「自由なんだろ?だから、俺の意思で選んだ人にキスをした」
「え……?」
大倉さんの、意思で……?
それって、つまり。
頭の中で辿り着いた答えに、驚きと戸惑い、嬉しさ、いろんな感情が一気に込み上げる。
そしてそれは涙となって瞳から零れ落ちた。