クールな社長の溺甘プロポーズ
「ほ、星乃?」
まさか突然泣き出すとは思わなかったのだろう。大倉さんは驚き戸惑いながら、指先で涙を拭った。
頬を撫でる、優しい指先。その体温が愛しくて、やっぱり好きだ。
伝えたい。正直な気持ちを、隠さずに。
「私、大倉さんのことが好き。だから、大倉さんが会社やお父さんのために私と結婚しようとしてるとか、そう思うと苦しくて、悲しい」
好き、悲しい。それらの本音。
「だから、私自身を見てほしいの。仕事のこととかお父さんへの恩とか、そういうことは抜きにして、私と向き合ってほしいの」
涙で声が震える。だけど、今言わなくちゃきっと後悔する。
今だけ、子供の頃と同じように素直になるんだ。
嬉しいときに笑うように、寂しい時や悲しいときに泣くように。
愛しい、一緒にいたいという気持ちを、真っ直ぐに。
「改めて、私と恋人から始めてください」
そう言って、立ち上がり深く頭を下げた私に、少しの時間大倉さんは黙り込む。
どうしたんだろ……。
そうチラッと様子をうかがうように顔を上げると、突然彼が近づく気配がした。
それを感じた瞬間、気づけば私は彼の腕の中にいた。
「大倉、さん……」
抱きしめるその腕に甘えるように顔をうずめると、大倉さんは意を決したように息をひとつ吸い込んで声を発した。
「……嘘だったんだ」
「え……?」
う、そ……?
それって、なにが。どういう意味?
その腕に抱きしめられながら彼を見上げると、大倉さんは頬を赤くした顔で私を見つめていた。