クールな社長の溺甘プロポーズ



「そ、そんな無茶苦茶な話、さすがにお父さんも断りましたよね!?」

「いや、『お前になら会社の技術も娘も預けられる。頼んだ』と快諾をいただいた」

「嘘でしょ!?」



いやいや、ありえないでしょ!

会社のために結婚って、娘の人生をなんだと思っているんだか!



込み上げる怒りをぶつけるように鞄からスマートフォンを取り出すと、父へ電話をかける。

ところがいくら呼び出し音が鳴ろうとも電話に出ることはなく、留守電にすらつながらない。



私からかかってくることを予想して出ないつもりだな……!

ブチッと電話を切ると、つい深いため息をつきながら目の前の大倉さんを見た。



「わざわざ来てもらったところ申し訳ないんですけど、私父からはなにも聞いていなくて」

「そうだろうな。澤口さんも『娘にはなにも言わないでおく』と言ってた」



けど私がはっきりと断れば、さすがに彼だって引き下がってくれるだろう。



「そう、だから結婚の話は……」

「『なかったことに』と言われても引き下がらないように、とも澤口さんから言われてる」



よ、読まれている。

私の言いそうなことなど、父にはお見通しだったのだろう。

その言いつけを律儀に守ろうとする彼に私も丸め込まれるわけにはいかない、と言葉を続ける。



「そんなこと言われても無理ですから!見ず知らずの人と結婚なんてできるわけないです!」

「大丈夫、夫婦も最初は他人だ。これから互いを知っていけばいいだろ」



うっ……。なんともまっとうな口ぶりで言いくるめようとしてくる。

堂々とはっきりとしたその態度はまさしく敏腕社長といったオーラを発している。

けど、ここで負けるわけにはいかない!


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