クールな社長の溺甘プロポーズ
「大変?なにが」
「なにがって、会社中に噂広まってるし、勘違いした皆から祝われるし、すっかり結婚するって話になってるし……どうしてくれるんですか!」
「そうか。公表する手間が省けてよかったな」
よくない!
しれっとした顔で流す彼に、キッといっそう目を釣り上げて睨む。
他人事だと思って!公表なんてそもそもする必要ないんだから!
そう心の中で叫んでハッと気づく。
「まさか大倉さん、それが目的で!?」
そう。わざわざ会社に来てプロポーズなんてしたのは、皆に誤解を与えて周りから固めて、私に断らせづらくするためだったのかもしれない。
いや、考えすぎかも?そこまでさすがに姑息な手は……。
「さぁ。どうだかな」
ところが、そう言ってフフンと笑ってみせるその顔から、考えすぎなんかではないと確信した。
絶対そうだ。周りから固める作戦だったんだ。
そして案の定、してやられたというわけだ。
話すうちに着いたお店の前で、大倉さんは足を止めた。
大通りから一本入ったところにある、黒い木造の小さなお店。
白い暖簾がかけられた小料理屋らしいそこは、看板もなく、なんだか高級そうな雰囲気だ。
大倉さんは躊躇いなく引き戸を開けた。
「いらっしゃいませ」
着物を着た女性に出迎えられ、店内を見れば、カウンター席とテーブル席が数席あるだけのあまり大きくないお店だ。