クールな社長の溺甘プロポーズ
「こちら、烏龍茶と板前お勧めの焼酎でございます」
女性が話しながら、テーブルの上に並べたグラスふたつ。
私はそのうちの焼酎が入ったほうのグラスを手に取ると、大倉さんと乾杯のひとつもすることなくひと口飲んだ。
「うん、さっぱりしていておいしい」
「はい。鹿児島の老舗蔵元から取り寄せている焼酎で、女性も飲みやすいお味となっております。お食事ととっても合いますよ」
確かに。香りも強くなくクセもない。女性でも飲みやすいだろう。
話すうちに続いて運ばれてきた懐石料理はあっという間にテーブルに並べられ、綺麗に盛り付けられた天ぷらやお刺身、茶碗蒸しなど華やかな料理がひろがる。
「ごゆっくりどうぞ」
そして女性が部屋を後にしふたたびふたりきりになると、私は早速箸を手にした。
普通の恋人同士だったら、ここで『わぁ、おいしそう』や『素敵なお料理ね』なんて目で楽しむような会話をしてから食事にするのだろう。
けれど、恋人でもなんでもない相手にそんな会話必要なし!私は食べる!
「いただきます」とだけ言って、天ぷらをひとつ取る。
サク、という軽やかな音をたて口に含めば、ふっくらした鱚の食感と少し甘い天つゆの味が広がった。
「ん!おいしい!」
思わずひと言を発してから、ハッと目の前の彼を見る。
大倉さんは私の反応が意外だったのか、少し驚いてからおかしそうに笑った。
「そうか。ならよかった」
どこか嬉しそうにも見えるその笑顔はこれまでの仏頂面とは少し雰囲気が違くて、初めて彼自身の表情を見せた。
なんか、そんな表情見せられると調子くるう。
複雑な気持ちで天ぷらを食べ続ける私に、大倉さんもお箸を手にした。