クールな社長の溺甘プロポーズ
「いいわよ、そこまで言うなら」
「そうか。じゃあ婚姻届に署名を……」
「って待って待って!早い!!」
そこまでは言ってない!
私の上からどき、婚姻届が入っているのだろう鞄をとろうとする彼に、私は慌てて体を起こしてその腕を引っ張り止める。
ていうか婚姻届持ち歩くのやめてよ……!
「いきなり結婚は無理。だから、恋人期間を設けてお互いを知りましょ」
「恋人期間、か」
「大倉さんも聞いた話ばっかりじゃなくて、自分の目で私を見て判断したほうがいいと思うの」
そう。私の作戦はこう。
恋人期間を設けて、一緒に過ごす時間を増やす。
その中で私のだらしない姿や嫌なところを存分に見せつけて、大倉さんのほうから『こんな人と結婚なんて嫌だ』と思わせる。
これなら無事、結婚話もなかったことになるというわけだ。
「ね」とこれまでとうってかわってにっこりとした笑顔を作ってみせる私に、大倉さんは少しなにかを考えてから納得したように頷く。
「あぁ、わかった。いいだろう」
「交渉成立ね。よろしく」
よし、うまく言った。これであとは彼をいかに引かせるかが勝負だ。
そうひと安心していると、彼は言葉を続ける。
「恋人同士ということは、なにをされても文句言うなよ」
「へ?」
ん?なにをされても、って?
その言葉の意味が理解できずキョトンとしていると、大倉さんはふたたび近付き私の頬に右手を添えて、至近距離でこちらを見つめた。