クールな社長の溺甘プロポーズ



「残念だったな、これくらいで引く男じゃなくて」



なっ!!!

それはつまり、私が引かせようとしていたことを分かっていたということ。

分かっていたから、スッピンにも汚い部屋にも動じなかったんだ……!



悔しい。けど、今日のところは完敗だ。

彼の嫌味な笑顔にがっくりと肩を落とす。



今はこれ以上の手段は思いつかず、支度を終えた私は、今日も大倉さんの車で会社の前へとやってきた。



これはまずい、他になにか手段を考えないと……。

そう悩む私をよそに、彼は車を止めると降り、こちら側のドアをそっと開けてくれる。



「じゃあ、今夜もまた迎えに来る」

「来なくていい、って言ってもどうせ来るんでしょ」

「もちろん」



その堂々とした肯定がむかつく。……けど。

私は車を降りると、小さく口をひらく。



「……送ってくれて、ありがとう」



ぼそ、とつぶやくひと言に大倉さんは不思議そうな顔をしてこちらを見た。



「この前、言い忘れたままだったから」



この前は、いいそびれたままだった言葉。続けて言わずにいるのは、なんだか気持ちが悪いから。

そんな気持ちで呟いた私に、その顔はそっと微笑む。



「今日も頑張れ、星乃」



そう言って大倉さんは、私の頬にちゅ、と軽いキスをした。

一瞬頬に触れただけの、挨拶のようなもの。

けれど突然、しかもこんな外で頬にキスなどされたことがなく、恥ずかしさに耳まで熱くなる。


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