クールな社長の溺甘プロポーズ
「なっ、なななな!?」
「恋人にいってらっしゃいのキスするくらい、普通だろ?」
いきなりなにをするの!
そう言葉にならない驚きや照れを表すように、つい彼を引っぱたこうと手を振り上げ下ろす。
けれど大倉さんはそれを颯爽とかわすと、運転席へと回り車に乗り込んだ。
一部始終を見ていたらしい周囲の人々の好奇の視線に晒される、そんな私をその場に残して彼は去って行った。
あの男……頬にとはいえ、公衆の面前でキスする社会人がどこにいる!!
なんだか恋人という立場になったせいか、余計大倉さんの手のひらの上で転がされている気がする……。
あぁ、周囲にいっそう誤解されるかと思うと頭が痛い。
深いため息をひとつついて、私は建物へ入る。
そういえば、そろそろいい加減にお父さんに電話つながるかな。
大倉さんが現れてから一回も電話つながらないんだよね。けどお父さんのことだ、もうすっかり忘れて電話に出るかもしれない。
バッグからスマートフォンを取り出し、お父さんの番号へと電話をかける。
少しの呼び出し音の後、通話ボタンの押された音に、私はロビーの端で足を止めた。
『もしもし、星乃か?朝からどうしたんだ?』
「どうしたもこうしたもない!アホ父!!」
『へ!?』
やはり、大倉さんの一件などすっかり忘れていたのだろう。
開口一番に怒鳴りつける私に、電話の向こうの父が目を丸くして驚いているのを想像しながら、言葉を続ける。