クールな社長の溺甘プロポーズ
「なんで見ず知らずの人と結婚なんてしなくちゃいけないの!」
『あぁ、佑のことか!見ず知らずなんてひどいなぁ。父さんは佑を6歳の頃から知ってるし、お前だって一度会ったことあるんだぞ?』
「そんなの知らないし覚えてない!」
そんなの、子供の頃の話じゃない!しかも一切記憶にないし。
『お得意様の、しかも大企業の社長で、しっかりしていて誠実。佑になら会社も任せられる!あんないい男と結婚できるなんて幸せだな、星乃!』
幸せって……どの口で言ってるんだか!
電話の向こうで『はっはっは!』と笑うお父さんに、イラッとした気持ちが込み上げる。
「お父さんがなんて言おうと結婚なんて絶対しないから!お父さんからも断っておいて!!」
声を荒らげ言うと、ブチッと勢いよく通話を終了させた。
もう、本当にあの人は……他人事だと思って!!
「おー、今日も朝から元気だな」
息荒く鞄にスマートフォンをしまっていると、背後から声をかけられた。
振り向けばそこには、ネイビーのジャケットをカジュアルに着こなした米田さんがいた。
「米田さん。おはようございます」
それまでの私の電話でのやりとりを見ていたらしい。明らかに疲れているだろう私の顔に、彼は苦笑いをみせる。
「そういえば、さっきの見たぞ。なんだあれ、超ラブラブじゃん」
『さっきの』というのは、私と大倉さんの頬へのキスシーンだろう。
あぁ、これでまた余計に噂が広がった。完全に弁明できなくなった。
諦めるようにエレベーターに乗る私に、米田さんも続いて乗り込む。