クールな社長の溺甘プロポーズ
「あと、迎えにくるのやっぱりやめない?せめてどこかで待ち合わせとか」
「俺が来なければ、残業だなんだと仕事をするだろ。仕方ない時もあるかもしれないが、日頃から働きすぎはよくない」
う……確かに。
つい先ほども少し残ろうとしていたことを思い出し、耳が痛い。
話しながら建物を出ると、また車を会社に置いて来たらしく、大倉さんは私と並んでオフィス街を歩いた。
背の高い彼は私のペースに合わせるようにして歩く。ちら、と見上げれば真っ直ぐ前を見て歩くその横顔は綺麗だ。
やっぱりカッコいい顔してるなぁ。
なのに恋人もいないで、会社のために結婚なんてありえないでしょ。勿体なさすぎるでしょ。
「星乃。見過ぎだ」
「あ!」
ついまじまじと見てしまった!
こちらに目を向けなくても感じるほど、よほど視線が伝わっていたのだろう。
慌てて顔を背けた私に、今度は大倉さんがこちらを見る。
そしてなにかに気づいたように前に視線を留めると、こちらへ手を伸ばした。
不意にぐいっと肩を掴まれ、体を抱き寄せられる。
それとほぼ同時に、横を自転車が通り過ぎていった。
「大丈夫か?かすったりしてないか?」
「う、うん」
びっくりした。
自転車に、じゃなくて、突然近づいた距離に。
ただ避けさせてくれただけなのだろう。
けれど、肩を掴んだ大きな手と力強さに、今になって心臓がばくばくと音を立て始めた。
って、少し触れただけじゃない!しっかりしてよ、自分!
平静を保つべく、慌てて彼から体を離すとゴホンと咳払いをひとつする。
「ところで、私が満足できるようなお店は見つけられたの?」
思い出したように切り出した話題。そう、それは今朝私が彼に振った難題についてだ。
「あぁ、もちろん」
けれど彼は頼りない声のひとつも出さずにはっきりと頷く。