クールな社長の溺甘プロポーズ
「星乃」
「え?」
すると、その時。
不意に呼ばれた名前に顔を上げると、目の前の大倉さんは水槽をちょんちょんと指さす。
なに?とその指先を見れば、彼の指の動きに合わせて、水槽の中の金魚がゆらりゆらりと泳いでいた。
赤いヒレをなびかせながら、彼の細い指先を追いかけ泳ぐ。ときに円を描くように、ときに左右を往復するように。
人懐こい金魚と、仏頂面で金魚と遊ぶ大倉さん。
どちらもかわいらしくて、私はつい「ふふ」と笑ってしまった。
「すごい、大倉さんその金魚に好かれてるのね」
「金魚に好かれてもな」
嬉しいようなそうでもないような、複雑な顔を見せる彼が余計おかしくてさらに笑ってしまう。
そんな私の表情を見て、大倉さんは安心したように小さく笑う。
「よかった、元気が出て」
「え?」
「今一瞬、落ち込んだように見えた」
さっきの私のたった一瞬の表情に、なにかを察して、そのうえで元気づけようとしてくれたの……?
大倉さんって、本当に鋭いというか、なんというか。
気持ちひとつも隠させてくれないから、困る。
「……そんな優しそうなこと言っても、結婚なんてしないから」
「そうか、それは残念だな」
そう言葉にしながらも、彼は残念そうなそぶりは見せず、ふっと笑みをこぼした。
何度顔を合わせても、本心ではなにを考えているのかが全くわからない人。
その余裕の瞳に全て見透かされているようで、どうもペースが狂ってしまう。
だけど、きっといい人なんだろうってことだけはわかった。
あの人と同じ言葉に、胸には込み上げる不安。
だけどどこかほんのすこしだけ、小さなときめきを感じて。