クールな社長の溺甘プロポーズ
◆4.距離は少しずつ
4月になり、オフィスの窓から見える遠くの公園には、満開の桜が咲いている。
あたたかな日、青空の下に揺れるピンク色の桜。
新年度、新生活。みんなが心踊る季節……だが。
「販促用POPがまだ店舗に届いてないって!澤口さんなにか聞いてます!?」
「あっ、はい!さっき連絡きて梱包ミスで出荷遅れてるそうです!各店に遅れる旨メールお願いします!」
「ちょっと、店舗から不良品のクレームきてるよ。澤口対応頼むわー」
「えぇ!?」
今日も私がいるオフィスは、ドタバタと慌ただしい。
そう。天気がよかろうと桜が咲こうと関係なく、仕事に追われている毎日。
ましてやうちのブランドは今年は新入社員もおらず、新鮮さのかけらもないのだ。
「はー……疲れた」
午後すぎ、ようやく仕事がひと段落つき、力尽きた私はぐったりとデスクに突っ伏していた。
「澤口、お疲れ様。はいコーヒー」
その声に顔をあげれば、コーヒーの入ったカップをふたつ手にした柳原チーフの姿。
先ほどまでのオフィス内のバタバタを見ていたのだろう。私の疲れ切った顔を見て苦笑いをこぼした。
「すみません、ありがとうございます……」
力なく返事をすると、体を起こし、コーヒーを受け取った。
オフィスのコーヒーマシンで淹れた、濃い目のコーヒー。
そこに砂糖とミルクをすこしだけ淹れて飲めば、ほっと体が安らぐのを感じた。