クールな社長の溺甘プロポーズ
「おいしい〜、癒される」
「だよねぇ。疲れた時は濃いめのホットコーヒーが一番」
気の抜けた声を出す私に、柳原チーフもコーヒーをひと口飲むと顔を緩めて言った。
柳原チーフ、仕事中は厳しいことも言うし怖いけど、こうして疲れてるときは労わってくれるいい先輩なんだよね……。
チーフとしてみんなから信頼される理由がわかる。
そうしみじみと優しさを感じながらコーヒーを飲み続けていると、柳原チーフは「それにしても」と話題を切りだす。
「澤口、最近やたらとバタバタしてると思ったら、仕事がハイペースだよね。前だったら余裕持って進めながら、終わらなかったら残業して、って感じだったのに」
「あー……はい、最近は、ちょっと」
「あ、そっか。愛しの彼氏とデートがあるから残業なんてしてられないもんねぇ」
冷やかすように言うと、うふふといやらしく笑う。
愛しの彼……ねぇ。
その響きにもう否定しようとするのは諦めて、私は苦笑いをこぼした。
大倉さんと出会ってから、一週間ちょっと。
彼は本当に一日置きに会いにきて、朝は私を会社まで送り、夜は迎えにきて夕食をという生活をおくっている。
何度目かになるとこのビル内の人も大倉さんを見慣れてきたようで、エントランスの受付嬢は彼が来ると『澤口さんにお迎えです』と電話をかけてくるくらいだ。
ていうか、仕事して一日置きに会いにきてってよく体が持つなぁ。
しかも夜に連れて行ってくれるのは、いつも凝った店ばかり。お店探しもひと苦労だろう。
……けど、悪い人じゃないということを知ってしまってから、なんだか最初ほど強く拒めない。
思えば、私のことや仕事のことを否定するような言い方をしたこと、一度もないんだよね。
心が広いのか、結婚するためには仕方ない、と言い聞かせているだけなのか。
どちらにせよ、いつも彼の掌の上なのが悔しい。