クールな社長の溺甘プロポーズ



付き合えよ、なんて言われても大倉さんが今日も待ち構えているのに、行けるわけがない。

米田さんもあんなにモテるんだから、私なんかを誘わずに彼女作ればいいのに。



そう思いながら歩いていると、ちょうど目の前からは電話をしながらエントランスに入ってきた大倉さんの姿。



今日はめずらしく少し遅れて着いたようだ。

といっても、私の定時に合わせてここに来ている時点で大分急いで来ているのだとは思うけれど。



大倉さんの流暢な英語に、相手は外国人、仕事関係の人だろうかと察する。

ああしていると社長っぽいなぁ。どうしよう、電話を終える頃まで少し時間を置こうか。

そう考えながら彼の様子をうかがっていると、大倉さんは視線に気づいたようにこちらを見た。

そして小さく笑って相手に話すと、電話を切った。



「悪い、待たせた」

「ううん、平気。仕事の電話?」

「あぁ。海外の仕事相手でな」



話しながらスマートフォンをジャケットのポケットにしまう。



「英語ペラペラなのね。すごい」

「仕事柄海外出張も多いからな」



短い会話を交わして、建物を出た私たちは、近くに停めてあった車に乗る。

彼の高そうな車に乗ることはやはりまだ慣れなくて、汚さぬように、傷をつけぬように、細心の注意を払って乗った。



「星乃は今日は上がるの早かったな」

「日中システムエラーでバタバタしてて。疲れたから定時ですぐあがったの」



大倉さんは、最近会うとこんな感じで、私の今日のことなどを自然と聞き出す。

聞かれることに答えるばかり。これもまた彼のことを知らない理由のひとつだ。


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