クールな社長の溺甘プロポーズ
池の端に用意された、ふたり用の小さなボート。
大倉さんが先に乗ると、ボートはチャプ、と音を立てて揺れた。
ちょっと、乗るの怖いかも。
今日ロングスカートだし、足つっかけたりしないように気をつけなくちゃ。
そう気を引き締めていると、不意に目の前に手が差し出された。
「え?」
見れば、先に乗った大倉さんは私に手を差し伸べてくれている。
「不安定だから気をつけろよ。お姫様」
そう茶化すように言いながらも差し出してくれる手に、私はそっと触れた。
長いその指は優しく私の手を掴んで、ボートの上に優しく導いてくれる。
不安定な足元も彼のおかげでなんとか着地し、私たちはボートの中にふたり向き合い座る。
大倉さんは木のオールを器用に使いこなすと、ボートを進ませた。
見れば、大きな池を囲むライトアップされた桜の木々。それらは水面にも写り、なんとも美しい。
「すごい、綺麗」
思わずひと言をこぼしながら、頭上の桜を見る。
少し進んだところで、大倉さんはオールを漕ぐのをやめ、静かな水面にふたりの影だけが浮かんだ。
「桜並木を歩いたことはあっても、ボートに乗ったのは初めて」
「そうか。それならよかった」
返ってきた声に彼を見れば、ライトに照らされるその横顔は桜によく似合う。
やっぱり、綺麗な人。
「ねぇ、いつもあれこれデート先を見つけるの大変じゃない?」
「いや?店探しは嫌いじゃないし、星乃が喜んでくれるのを想像すると楽しい」
……またそんな上手いことを言って。
そう思うけれど、やはり嬉しい気持ちもある。
彼は、いつも私のことばかり。
だからこそ、私も。少しくらいは歩み寄るべきなのかもしれない。