クールな社長の溺甘プロポーズ
◇5.ワガママにも笑って
桜の下、絡められた指から、少しずつ少しずつ、確実に彼が近づいていることを感じた。
冷たくて大きな手。
その感触が、消えないよ。
ぱち、と目を覚ます日曜の朝。
窓の外からはチュンチュン、と小鳥のさえずりが聞こえた。
「朝……」
珍しく早くに目が覚めたのは、きっとここ最近早起きする習慣がついてきたからだと思う。
これまではギリギリまで寝ていたけれど、大倉さんが家にくるから寝ていられなくて、自ら早起きするようになったんだよね。
その習慣が日曜にもついてしまうなんて。
もう少し寝ていたかった気もするけれど、こうなってしまってはもう二度寝は出来ない。
観念して起きようと決めて体を起こし辺りを見回すと、ベッドのある寝室はホコリひとつなく綺麗だ。
大倉さんは私の家へハウスキーパーを週にニ度来るよう指定してくれたようで、それ以来掃除や洗濯をこまめに行ってくれている。
女としてまずいな、この生活……。
ただでさえ家事をしなかったのに、今ではほぼ全くしていない。しかも大倉さんのお金で来てもらっているわけだし。
けど大倉さんは『楽になるなら使うべきだろ。金は気にするな』と譲らないし……。
どうするものかと考えながら、テレビでも見ようと寝癖頭のまま寝室を出る。
すると、不意に漂うコーヒーの香りが鼻をくすぐった。
「星乃。起きたか」
そこには、淹れたてのコーヒーを飲みながらノートパソコンを開く大倉さんの姿があった。