クールな社長の溺甘プロポーズ
少し休憩しようか、と大倉さんは近くのオープンカフェを目で示す。
それに頷くと、私たちはふたりアイスコーヒーを購入しテラス席に腰を下ろした。
緑に囲まれた静かなカフェで、柔らかな風を感じながらホッとひと息をつく。
冷たいアイスコーヒーが、それまで上がりっぱなしだった熱を落ち着けてくれる。
改めてふたり肩を並べて座ると、どんな話をしていいかがわからない。
なにを言おう、どう言おう。そう迷いながら言葉を探す。
すると、先に口を開いたのは大倉さんのほうだった。
「星乃は、どうしてアパレルに就いたんだ?」
「え?」
なにをいきなり、と戸惑ってしまうけれど、自分のことを自ら話すこともたまにはしてみようかと私は答える。
「どうして、と言われると……人並みだけど、服が好きだから、かな」
自分で口にした言葉に、思い出すのはそのきっかけとなった日のことだ。
「私、こう見えて言いたいことを我慢するタイプの子供だったの」
「それは意外だな」
「うるさい」
自分でも『こう見えて』とは言ったけれど、すんなり頷かれるのもムカつく。
またアイスコーヒーをひと口飲むと、気を取り直し話を続けた。
「4つ下の妹が生まれてから両親がそっちにかかりきりで、本当はすごく寂しかった。けど、『私はお姉ちゃんだから仕方ない』って自分に言い聞かせて我慢してた」
5歳か6歳くらいの頃だと思う。
それまで自分だけを見てくれていた両親が、妹の世話に追われるようになって、本当はすごく寂しかった。
けれど、そんな気持ちを言うことはできなかった。