クールな社長の溺甘プロポーズ



「けどそんなある日、私の誕生日前にお父さんが『誕生日にパーティしようか。プレゼントはなにがほしい?』って聞いてくれたことがあってね。私、『なにもいらない』、『お仕事も妹のお世話もあって大変なのにいい』って断っちゃったんだ」

「星乃らしい。背伸びした答えだな」

「えぇ。さすがにお父さんも気付いたみたいで、困ったように笑ってた」



今思えば子供が背伸びをしていることがよくわかる答え方だ。

だけど、その時は私にとって精一杯の強がりだった。

そんな私をお父さんは優しく抱き上げてくれた。



「その時にお父さんに言われたんだ。『嬉しいときに笑うように、寂しいときや悲しいときは泣いていい。甘えたいときは甘えていいんだよ』って」



優しいその言葉に、そっか、もう我慢しなくていいんだって、そう思ったら涙がこぼれた。



「お父さんの言葉に、初めて寂しい気持ちを打ち明けられた。本当は誕生日パーティも嬉しいこと、プレゼントに赤いワンピースがほしいこと」



全部全部、胸の奥に秘めていた気持ちだった。



「それで誕生日当日にお父さんがくれたのが、綺麗な赤色をした、私の体型にぴったりのワンピースでね。お父さんが、お母さんとブランドの人と話し合って、サイズからデザインや素材、全て私のためにオーダーしてくれたものだったの」



微かにラメがきらめく、綺麗な赤色のワンピース。

それは、私の体にぴったりのサイズで、肌の色や顔立ちにもとてもしっくりとくるものだった。



「自分のために……それは嬉しいな」

「うん。あの時の嬉しさは、一生忘れないって思った」



自分のために、ふたりが考え、たくさんの人が手がけてくれた。

たった一枚、だけどその一枚が、私の心を震わせるほどの嬉しさをくれたんだ。


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