クールな社長の溺甘プロポーズ
「大倉社長、いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
出迎えた男性のもとで受付を済ませると、彼とともに会場に入る。
頭上に大きなシャンデリアが輝く広いホール。
そこは真っ赤な絨毯が敷かれ、沢山の食事が並び、スーツやドレスに身を包んだ人であふれていた。
高そうな貴金属を身に着け、ワインを手に笑う人々は見るからにどこか会社の社長・社長夫人・御曹司、といった雰囲気だ。
それまでいくつかのグループに分かれていた会場内は、大倉さんを見つけた途端わっとこちらへ押し寄せる。
「大倉社長、お久しぶりです」
「本日も一段と素敵で、さすが大倉社長ですわ」
一気に集まる人々に驚く私に、大倉さんは真顔のまま、守るようにそっと私の肩を抱いた。
そんな彼の様子に、人々の視線はこちらへ向けられる。
「大倉社長、こちらのお嬢さんは……」
「えぇ、僕の婚約者です」
「婚約者!?」
先ほど以上に大きくざわめくその場に、余計ビクッとしてしまう。
「おめでとうございます。お綺麗な方ですね、さすが大倉社長が選ばれた方だけある」
「ご結婚式はされるんですか?その際はぜひうちもご招待を……」
「そうだ、お父上にもよろしくお伝えください」
けれど、ひっきりなしにかけられるその言葉たちに、なんとなく違和感を覚えた。
こんなに人がいるのに、大倉さんに声をかけているのに、どうしてだろう。
一切気持ちが伝わってこない。
『素敵』『さすが』『おめでとう』
どれも明るい意味を持つ言葉のはずなのに。
見上げた隣の彼も、それを感じているかのように眉ひとつ動かさない。
……変な、感じ。
大倉さんがいつも見ている世界の一部を、垣間見た気がした。