クールな社長の溺甘プロポーズ
「大倉さんは会社を継ぐことに抵抗や反抗心はなかったの?」
モヤモヤとした気持ちを払うように、大倉さんに話題を振る。
まさか自分に話題を振られるとは思わなかったのだろう。彼は少し驚いてから不服そうな顔をする。
「……俺のことはいい」
「ダメ。昼間は私のことを話したでしょ。大倉さんのことも聞かせてくれなくちゃ不公平じゃない」
そう言ってじっとその目をみると、彼は渋々といったように口をひらく。
「そうだな。特に抵抗はなかったな」
「あー、昔から『将来は跡継ぎ』って言われてたってこと?」
「あぁ。俺はひとり息子だし、自身も周りもそれが当たり前だと思っていた。寧ろそれ以外の道を考えたことがない」
そっか、そうだよね。長男なら尚更だ。
けれどそこで反発心を持たないあたりが大倉さんっぽいといえばぽいのかもしれないけれど。
「けど、そんな中でも夢を叶えたいといつも思っている」
「夢?」
「頑張って、親や社員たちがこれまで築いてきた会社を守りたい。社員のためにも、澤口さんのようなうちのために頑張ってくれている取引先のためにも。支えてくれた人たちを安心させたい。それが、ずっと俺にとっての夢だ」
守ること、支えることが、夢……。
自分のためじゃない。人のための夢。
大切な人を安心させたいと願うその心は、なによりキラキラとしているように思える。
やっぱり、いい人だ。
さぁ、と吹く風にスカートの裾が揺れる。
微かに乱れた彼の黒い髪に、無意識に手は伸びており、私はその頭をそっと撫でた。