クールな社長の溺甘プロポーズ
「ふぁ〜」
平日14時すぎのオフィスで、私はマヌケな声とともに大きなあくびをこぼした。
昼食後のこの時間、ぽかぽかとした穏やかな太陽に照らされてついつい眠気に負けそうになる。
「こら、澤口。変な声出さないの」
「す、すみません」
柳原チーフに叱られ、慌てて口を閉じる。そんな私を見て、他の社員たちはおかしそうに笑った。
いけないいけない、仕事中だ。
たまにある暇な日の午後は、こうして睡魔との戦い。けど今日はいつも以上に眠い。
昨日も大倉さんと会っていて帰宅したのは0時近く。
それに加えて嫌な夢を見て、寝起きの気分も最悪だった。
「澤口さん、眠そうですね。ちょうどコーヒー淹れるので飲みませんか?」
「うん、お願い」
そんな私を見兼ねてか、後輩の女の子は給湯室へ向かうと、コーヒーを注いだ湯気のたつカップを手にしてすぐ戻ってきた。
「はい、どうぞ。眠気覚ましになるようにブラックです」
「ありがとう、いただきます」
カップを受け取りひと口飲むと、コーヒーの濃い苦味が寝ぼけていた頭を刺激する。
「澤口さん寝不足ですか?あ、もしかして昨日も彼氏さんとラブラブでしたね?」
うふふと笑って冷やかす彼女に、私は苦笑いをこぼす。
ラブラブというほどではない。けど否定をすれば余計冷やかされるだけだし、肯定をすれば詳しく問われる。
どちらにせよ自分の望まない反応になるのがわかっているので、曖昧に濁してコーヒーをまたひと口飲んだ。
しかも、このすっきりしない感じは大倉さんのせいではない。
夢に出てきた元彼のせい、なんて言えないよね。
もう半年も前に終わった話なのに、なんで今更……。
彼のことを思い出すたび、憂鬱さが心を覆う。
それと同時にいっそう仕事に励まなければという気持ちにさせられる。