クールな社長の溺甘プロポーズ
その日の夜。仕事を終えた私はひとり、品川駅へ向かう道を歩いていた。
今日は大倉さんとは会わない日。
大倉さんは今頃まだ仕事してたりするのかな。
ていうかあんなに頻繁に私といて、他との付き合いとか大丈夫なのかな……。
聞いたところで彼は『大丈夫だ』としか言わないだろうけれど。
どうも隙がないというか、『大丈夫』以外の言葉を聞かせてくれないんだよね。
もう少し、いろんな顔が見てみたいとも思ってしまう自分もいる。
そう考えながら歩いていると、駅近くの飲食店からはお肉のいい香りが漂ってきた。
いい香り……お腹空いたな。
今日は夕飯どうしよう。たまには自炊でもしようかな。
少しくらい家事もしないと、結婚してから困りそうだし……って、なにを考えてるの!私!
自然と頭に浮かべてしまった『結婚』の文字を慌ててかき消す。
だけど大倉さんと結婚したとしてなにを作ってあげればいいんだろう。
好きな食べ物も知らないや。今度聞いてみようかな。
「あれ、星乃?」
その時、背後から聞こえた高い声に心臓がドキ、と嫌な音を立てた。
足を止めゆっくりと振り向くと、そこにはひとりの女性が立っている。
小柄な体を白いニットに身を包んだショートカットの彼女は、学生時代からの友人のひとりである、沙也加。
思わず顔がひきつる私の反応を見てもなお、沙也加はにっこりと笑って手を振り小走りで駆け寄った。