【加筆・修正中】恋した君に愛を乞う
先程までの軽薄なイメージとはかけ離れた、経営者の顔がそこにあった。

けれどどんなに疑われようと私は自分の意思でこの会社を選んだ。
むしろ佐伯との関わりなんて断ちたいとまで思っているのだから。

「私は、佐伯の人間だということを隠すつもりはありませんでした。ただ、今は家を出ていますし、現社長である叔父とも繋がりがあるわけではありません。それに、私は母とは……、義理の母との関係は良好であるとは言えませんので……」

ここまで話して、思い出したくない過去が脳裏に浮かび言葉を詰まらせる。
義理の母との関係は良好ではない、などというレベルではないほどに拗れていた。
私にそんな気はないのに、父が亡くなった時、私が会社を乗っ取ると考えてあちこちに手を回して私の居場所を奪ったのはあの人なのだから。

「……ごめん、そんな顔しないで。君を追い詰めるつもりはないんだ。ただ、可能性のあることだから。でも、嫌な思いをさせてすまない」

本当に申し訳ないという表情を浮かべてそう言うと、社長は頭を下げた。
大企業の社長がこんなにあっさり頭を下げたことに単純に驚いて逆に恐縮してしまう。

「いえ、いいんです。疑われて当然だと思います。ただ……、私は本当にAgresで働きたくてここを選びました。内定をいただいた時は本当に嬉しくて……。むしろ、佐伯の人間ではありますが、お役に立てそうもないことを申し訳なく思っています」
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